第一回「“いい音”を聴こう!ピュアオーディオ視聴会」レポート

5月23日、注意報が出るほどの大雨に見舞われる中、高槻にあるA & Mの視聴室に、京都で活躍されているバンド“キツネの嫁入り”のマドナシさんをお迎えし、第一回「“いい音”を聴こう!ピュアオーディオ視聴会」が開催されました。

<キツネの嫁入り:プロフィール>
(写真左より ウッドベース:藤井都督 ボーカル/アコースティックギター:マドナシ アコーディオン/シロフォン:ひーちゃん ドラムス:カギ)
2006年より京都出身でないマドナシ・ひーちゃんにより結成。2007年にパーカッション・カギ参加。2010年藤井都督氏ウッドベースで参加。
2009年11月にgyuune casetteより1stAlbumをリリース。東京・海外問わず、様々なアーティストを集め、スキマ産業という企画を26回に渡って企画している。
アコギ・アコーディオン・木琴・ウッドベース・パーカッションと歌からなる音楽は、変拍子を織り交ぜ、メンバーの多種多様の音楽嗜好から幅広い音を生み出す。それは「キツネの嫁入り」というジャンルそのもの。使い古された者たちに別れを告げ、この飽和した現代に、警鐘を。ただの事実を。慈しむべき今を歌う。

まずはA & M三浦社長よりマドナシさんに、今回の視聴会の趣旨についてお話しいただきました。特に、音楽の世界が「芸術的な観点」ではなく「利便性や技術の進歩」によってデジタル化・ポータブル化されている今、高音質配信というイージーな“結論”に達する前に、もう一度アナログの良さを知ってもらいたい、というくだりは、「アナログ・ルネッサンス」というキーワードとともに最近の社長の話に繰り返し登場しています。

三浦社長(以下“三”)「我々は何とかして“いい音”っていうのはこういうものだよ、と伝えていきたい。しかも、スペックばかりじゃなくて、“チリッ”とも“パリッ”とも“ザリザリッ”とも言わないような音が“いい音”ではなくて、“ザリザリッ”と言うけれども、アナログの音の方が、人間のハートに訴えてくるものがあるなぁ、という、そういう本当の“音楽”を知らせてあげたい」

続いて、僕の方からマドナシさんへ、オーディオシステムの簡単なご説明をしました。
自宅では安価なミニコンポとパソコンに2.1chのスピーカーシステムを繋いで音楽を聴いているというマドナシさん。ご実家ではお父様がオーディオシステムを持っていらっしゃるそうですが、マドナシさんご本人は触ったことは無いらしく、特にイコライザアンプの機能(RIAAカーブのことなど)についてはご質問も交えながら興味深く聞いてくださっていました。

今回のオーディオシステムは以下の通り。

パワーアンプ:ATM-2001S
コントロールアンプ:ATE-2001
CDプレーヤー:WADIA581
ターンテーブル:TRANSROTOR ZET-3
トーンアーム:TR5009
カートリッジ:PC-1
スピーカー:TANNOY Monitor Red

一通りご説明が終わったところで、実際にアナログレコードを聴いていただくことに。
三浦社長がはじめに選んだのは、アート・ブレイキーの1958年録音の超有名盤「Moanin`」から一曲目の“Moanin`”。センターマイクに向かってきて豪快にブロウするベニー・ゴルソンのサックスのド迫力!

三「CDで聴く音は、こんなサックスの音が太く……というか、“普通のまま”、いわゆる生のサックスの音を出すのはなかなか難しい」

マドナシさん(以下“マ”)「そうですね。生っぽいですね。LPだからなのか、このスピーカーだからなのか、レコーディングの仕方なのか……全然違いますよね、この音は」

三「それはやっぱりLPの独特のもの。それと、“アナログ録音”。信じ難いことに、これ50何年前に既にこれだけの音が録音されてたわけですよ」

マ「なるほど」

三「多くの人がこの音をもっと知っていたら、CDに簡単に移行しなかっただろう。しかしやはり、安価で手軽なものに行ってしまった。
もうひとつは、エジソンがレコーディングシステムを作ってから100何年か……その間にものすごく技術が進歩したと言うより、音を作る人—プロデューサーからレコーディングエンジニア、カッティングエンジニア……彼らがものすごく情熱を込めてレコードを作っていた。音楽を大切にしようとか、プレイヤーがこれだけ精魂込めてプレイしている音は、何とかしてその音を家でも再現できるように録ってやろうという熱意があった。CDになってからは、プロデューサーら作り手側の情熱というものがあんまり伝わってこない。もちろん、いい録音のCDもあるけれど、あまりにイージーなものが多い。
しかも驚くことに、(「Moanin`」は)マイクLR一本ずつとセンターマイクの3本で録ってる」

マ「ほほぉ」

三「今はマルチマイクロフォンで、ピアノだったらピアニッシモからフォルテッシモまでいくつもマイクを並べて、それをミキシングして録る」

マ「え、じゃあこれって別録りとかじゃなくて……」

三「昔は全部そうだった。今、音の悪くなってきてるのは、マルチにすればするほど、マイクに“指向性”が必要なわけだよね。音が混じりたくないから。ひとつは、指向性のあるマイクが音を悪くしてるんじゃないかなと思う。この当時は一本で(複数の楽器を)録ってるから。それでもちゃんとミュージックステージは再現できる」

マ「うんうん」

三「それと今だったら、例えばドラムのソロが始まったとしたらドラムの音にミキシングで寄せていって、シンバルの音が耳元で鳴っているように強調して音を作ってしまっている。“すげぇシンバルの音が鳴ってる”なんて言ってるのは生の演奏を聴いてないからで、ドラムの位置はどんなに強く叩こうが同じ位置から鳴らなきゃいけない。ミキシングでドラムの位置まで変えてしまうようなレコーディングがやたら多い。そういうレコーディングに対して、僕らは非常に危機感を感じている」

マ「なるほど」

三「これからは全てデジタルに進んでいくんだけど、後世に残るようなものを録るには、ただ録るんじゃなくて、皆が情熱を込めて録れば、こういった50年前の録音でも、今聴いても、最近の録音と比べてもずっと生っぽいリアリティを感じてもらうことができる」

二曲目は若きライオネル・ハンプトンの熱演が冴え渡る1947年の録音「STAR DUST」より“STAR DUST”を、ヴィブラフォンソロから再生。ハンプトンのうなり声までもがスイングしてます。モノラル録音なのに伝わってくる立体感。

三「レコードだからいい音なんじゃなくて、録音する側がすごくこだわりを持って、“何とかしていい音で録ってやろう”というものが、この盤に表れているんだと思う」

因みに録音は二本のマイクで録られていたんだそうです。
ジャズは「たまにマイルス・デヴィスを聴くぐらい」というマドナシさんですが、「すごい良かったですよ」と一言。その言葉を待ってました(笑)。

アナログからステレオへの変遷について三浦社長にお話いただいて、いよいよマドナシさんにお持ちいただいたCDを聞いていただくことに。 選ばれたのは、石橋英子×アチコ「サマードレス」より“サマードレス”。

読み取りが遅いプレイヤーにすかさず、

三「こいつは高いだけで読み取りが遅いんだよ」

因みに160万円です。

マ「マジすか(笑)」

再生し始めて少しすると、何だか気になるプチプチという微かなノイズが時折聞こえてきます。意図的にノイズを入れていると言うよりは、別の要因でノイズが聞こていえるような音でしたが、スピーカーを変えてみても、同じ所で割れたような小さな音が聞こえてました。別のCDをかけてみると、ノイズは聞こえなかったんですが、マドナシさんが今まで家で聴いていてノイズには気づかなかったそうです。

結局、真相は謎だったんですが、三浦社長は「同じピアノ&ボーカルの録音」ということで、おもむろに取り出したのが以下のCD。

中国語で歌唱法も違いますが、先ほど聴いたものと比べると、膜を数枚剥がしたかのような、明瞭で生々しい声の響き。同じCDというメディアでもこれほど音が違うとは!

最後は、ご本人の音源として、キツネの嫁入り「いつも通りの世界の終わり。」より“群れをなす”を聴いていただくことに。

マ「中音域が前に出てきますよね。家とかで聴くと、低音とハイが(強く)聴こえる気がするんですけど」

三「どっちが好きですか」

マ「僕はこっち(視聴室)の方が好きです。(家だと)低音とハイが出過ぎて、潰れた感じになっちゃいますね。レコーディングする時には、結構そういうのを意識してやるんですけど、今聴くと、録った時のマスターの音に近いのは、こっち(視聴室)のような気がしますね」

ここで三浦社長、ノラ・ジョーンズの2007年のライブ「Live from Austin TX」をターンテーブルへ。アナログ録音に拘った一品とのこと。こうやって順番に聴くと、“サマードレス”、“群れをなす”共に、ボーカルの存在感が物足りなく思えてきます。

三「両方とも、人の声がもっと前に出てきてほしい。(“群れをなす”は)木琴やシンバルの音だけが強調されてて、人の声が引っ込んでる。ライブで聴く時は、もっとボーカルが出てきてるはず。でなければお客は納得しないと思う。けれど、CDで聴くとボーカルは引っ込んでる。楽器の綺麗なところだけが出てきてる感じですね」

マ「最後のマスタリングの時に、本来は中音域が出てボーカルが立って、ということにしたかったんですけど、今の人が、どういう環境で一番聴くか、っていうのを踏まえたら……」

三「だから逆に、ミュージシャン側から“自分がライブで歌ってる時みたいな音で録ってくれ”というぐらいのことで初めて、みんな(リスナー)が“俺がライブで聴いてたのを自分の家で再現してるんだ”っていう感覚が味わえるようなものなんじゃないかな、という気はするけど」

マ「そうですねぇ……。僕らも今回(「いつも通りの世界の終わり。」)、初めて作ったんですよ。こういう、ちゃんとレコーディングしたものは。で、勝手が全然分かってないっていうのがあったんで、レーベルの人と相談したんですけど。僕らとしては“ここが納得する音ですよ”ってのはあったんですけど、多くの人がどういう状況で聴くのかと言えば、やっぱりiPodだったり……僕はiPodでは一切聴かないんですけど。だから、そういう環境でどういう風に聴こえるかっていうのを踏まえて、僕らが納得していいところとの折り合いをつけないとしょうがないと思う、みたいな話で。じゃあ、今回はそれで行きましょうか、っていうことでやってみたんですけどね」

三「それは、今の典型的なテンデンシー(傾向)じゃないかと思うね。アメリカでもiPodによって音質が損なわれたというコラムが新聞に載るくらいだから、共通してる傾向だと思います」

マ「アナログで録るっていう選択肢もあったんですよ。でも、時間であったり、予算的なところで……止む無しと」

三「今度はアナログで録ってほしい。よかったらうちでも(視聴盤として)使わせてもらう」

マ「今のお話とか、(アナログの音源も)色々聴いてみると、次回レコーディングの時は、やってみたいですね」

ここで、僕の方からこの記事での山下達郎のエピソードを引用させていただき、アナログとデジタルの違いについて、少し補足させていただきました。「ライブ録音が好き」というマドナシさん的にも、この例えが一番しっくり来たようです。

最後は、手嶌葵の「The Rose~I Love Cinemas~」を聴きながら、今回の視聴会の締めへ。

マ「因にこのセット一式でいくらかかるんですか」

こんな感じです。
ATM-2001S(315万円)
ATE-2001(126万円)
WADIA581(160万円)
TRANSROTOR ZET3(73.5万円)
TR5009(35万円)
PC-1(60万円)
TANNOY Monitor Red(???万円)

マ「あ、そうなんや。……カートリッジって60万もするんすか」

いや、これは、特別に高いものなんです(笑)。

さてマドナシさん、今日は色々聴いていただきましたが、いかがでしたか。

マ「そうですね、色々考え方が変わるというか……やっぱり、予算的なところで一般的に普及するかどうかと言うとなかなか難しいとは思うんですけど、僕は今までこういう(システム)の音を聴いたことがなかったんで、色んな人に聴いてもらうチャンスっていうのがあればなぁ、と思いますけどね」

うん、そうですねぇ。

マ「色んなものに関してもそうだと思うんですけど、ピンキリとして、一番ベストなものはこういうものがあって、でも今はこれ、っていう、そういう認識は持っておく必要があると思っていて、それで言うと、本来はこういう聴こえ方をすべき、っていう(音があって)、でまあ、予算の都合とか、色んな兼ね合いで今回はこれでやるけど、本来はこれがやりたい、こうあるべき、っていう、そういうのは、色んな人が知る必要があるという気がしますね」

そんなわけで、第一回ピュアオーディオ視聴会は、この後も社長の熱弁続く中、終了しました。最後に締めとして、社長の印象的だったお話を引用させていただきましょう。

三「やっぱりソフトが良くなければ、“いい音”ってだけで人間、満足するわけないんですよね。ただ“楽器の音が綺麗だ”とかいうのだったら、いっぺんかけたらおしまいだけど、やっぱり“うわぁー、よかったあっ!”って心底思えるものは何遍でもかけたくなる。それが“音楽”だからね。ミュージシャンもそれを売りたいはずなんだよ。絶対に。何遍でも聴いてもらいたい。そのインパクトを与えるためにプレイしてるはずだから」

マドナシさん、お忙しい中お付き合いいただき、ありがとうございました!

<キツネの嫁入り:今後の予定>

■2010年6月6日(日)@木屋町UrBANGUILD
「ゆるりらぢゅーん」

■2010年6月26日(土)
場所:埼玉スタジアム2002

■2010年7月18日(日)@梅田ハードレイン

詳細はキツネの嫁入りスケジュールまで

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