ロシアの軍用真空管がオーディオアンプに搭載されるまで

最近はピュアオーディオ視聴会が終わると、次回の開催までの間にA&Mに一度お伺いして打ち合わせ(主に反省会)をするのがひとつのルーティンになっているのですが、毎回訪問するたびに、今まで知らなかったことや、ちょっと面白いネタが見つかって、それがまた楽しみだったりするんです。「ディスクフラッター」もそのひとつ。

先日の打ち合わせでは、三浦社長が「資料を探していたら、偶然こんなものが見つかった」と、1994年の読売新聞の1面のコピーを見せてくれました。

今から34年前の1976年、「ミグ25事件」というのがあったそうです。僕がまだ1歳になるかならないか、という頃の話です。
いわゆる冷戦時代ですが、そのまっただ中にソ漣(当時)の将校が、ミグ25戦闘機に乗って日本へ亡命を求めてきた、という事件なんですが、その際、日本がそのミグ25を機体検査してみると、当時既に時代遅れであった真空管を使用していることが分かりました。それを知ったアメリカはソ漣の軍備のチープさに胸を撫で下ろしたということなんですが、一方で、電子機器よりも発熱や電磁波に強い真空管を使うことで、万が一の際(この時期だと「核爆発」を想定していたのでしょう)に、より信頼性の高い設計にしていたのでは、という話もあるんだそうです。

さて、そんな冷戦も80年代末に終結。ソ漣は崩壊し、ロシアは資本主義化の中で軍縮を行い、それまで作っていた軍用の真空管が大量に余ってしまったらしいんです。
どうしたものかと考えた結果、「オーディオアンプのメーカーに使ってもらおう」ということになったようで、真空管のメーカーがA&Mに「うちの真空管を使ってほしい」と手紙を出したんだそうです。

今でこそロシアは主要な真空管生産国として国内にも沢山輸入されていますが、当時は冷戦が終わったとは言え、まだまだ安定した流通経路がなく、アジア経由でしか輸入できないなど、色々と苦労があったようです。

今から10年ほど前、今の視聴会にも使用しているATM-2001というパワーアンプの試作機を見せてもらった時、初めて見るようなゴツい真空管が12本も差さっているビジュアルインパクトに息を飲み、それが「ロシアの軍用真空管だ」と教えられた時に昂るような感覚を覚えたことを、今でも鮮明に思い出せます。

例えば「ディスコ」のルーツが第二次大戦中に生バンドの慰問が困難になった際、代わりにレコードをかけていたことであるように、ヴォコーダーという声をロボットのように変えてしまう楽器が第二次大戦中に音声暗号化技術として初めて実用化されたように、音楽と戦争は切っても切れない仲で、先のイラク戦争では、米軍がヘヴィ・メタルを爆音で鳴らすだのといった信じ難い話もありますが、こういった平和利用をされてこそ、音楽も技術も報われるんじゃないかと思います。

以上、真空管の四方山話でした。

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