neco眠る再び / ベラフォンテに熱狂?……第五回「“いい音”を聴こう!ピュアオーディオ視聴会」レポート
信じられないような熱さに見舞われた夏もようやく終わりにさしかかり、涼しい風が流れるようになってきた9月の後半。気持ちの良い秋の陽気の中、五回目の「“いい音”を聴こう!ピュアオーディオ視聴会」が開催されました。
場所は勿論、A&M LIMITED視聴室です。
今回のゲストは、「vol.002」が全国で絶賛販売中!の「IN/SECTS」編集部より、編集長の松村貴樹さん、編集の村田恵里佳さんにお越しいただきました。
<松村貴樹さん:プロフィール>
LLCインセクツ代表。
ガンバ大阪の遠藤保仁に似てると最近よく言われます。
セレぶり3以降、野波麻帆にはまってます。
新天地である谷町6丁目に移り、
9月15日に『IN/SECTS』最新号発売しました! 買って。
<村田恵里佳さん:プロフィール>
大学を卒業後、LLCインセクツへ入社。
2009年退職。
現在は、フリーライター/雑誌『IN/SECTS』編集部員/大阪・野田にある古本のセレクトショップ[PART TIME BOOKSELLERS]スタッフ。
カレーの追っかけ&出張ユニットONILAB.も部活的にやってます。
ちなみに松村さんは、普段は主にiPhone+安価なイヤホンで聴かれていて、自宅には数万円台のミニコンポがありますが、今は家で音楽を聴くことはほとんど無いとのこと。村田さんはカーオーディオと、パソコンに小型のスピーカーを繋いで、仕事をしながらiTunesで音楽をかけている、というのが主な聴き方だそうです。
今回は見学の方も三名来ていただき、いつも以上に賑やかな、イベントらしい雰囲気(?)になっておりました。
はい、それでは視聴会の開始です。
(以下、CDは〈C〉、アナログ盤は〈ア〉と表記します)
まずは三浦社長の方から、この視聴会では定番となっている、ライオネル・ハンプトンの「STAR DUST」〈ア〉をプレイ。今回も、ビブラフォンのソロから聴いていただくダイジェスト版です。
モノラル時代の名録音ですが、いかがですか?
松村さん(以下“松”)「いやもう、素直に“綺麗”。音が全部そのまま出てると言うと言い過ぎかも分からないけど、でも、現場の臨場感が伝わりますね」
このレコードは47年録音のもの。その後、ステレオ再生のオーディオ機器が普及していく中、ステレオ盤が発売されたり(以前疑似ステレオ盤をかけたことがありました)しましたが、特に50〜60年代のジャズの多くは、モノラル盤の方がミックスが良かったそうです。そんなわけで、視聴会でいつも使っているこのレコードも、オリジナルのモノラルミックスです。
さて、それではここで本日のオーディオシステムについてご紹介します。今回は今までと比べて、使用するスピーカーが変わったのが一番の違いですね。
パワーアンプ:ATM-3×2 (写真中央)
コントロール/イコライザアンプ:ATE-2001
CDプレーヤー:WADIA581
ターンテーブル:TRANSROTOR APOLLON TMD
トーンアーム:TR5009
カートリッジ:My Sonic Hyper Eminent
スピーカー:GamuT Superiores S5 (写真中央寄りの細長いスピーカー)
GamuTはデンマークのスピーカーだそうで、視聴室にあるのは、A&M創業当初にGamuTの方からいただいたものとのこと。国内では取り扱っている輸入代理店がないそうです。
実はこのスピーカー、少しテーパーがついて、奥に少し傾斜しているようになっているんですが、何故かと言うと、高い音の方が低い音より耳に届く速度が速いので、高域のスピーカーユニットが少し奥に位置することで、高い音から低い音まで同時に届くように設計されているんだとか。
さて、そんなオーディオシステムで、お二人にお持ちいただいた音源を聴いていただきましょう。
まずは、「インセクツと言えばneco眠る!」と松村さんが持ってきてくださった、ドーナツ盤の「猫がニャ〜て、犬がワンッ!」〈ア〉をお聴きいただきました。
そう、前回はちゃんとしたアダプターが無くて、ポテンシャルを発揮できなかったあのレコードです。
しかし今回はピッタリ合うアダプターも見つかり、バッチリ鳴らすことが出来ました。
キックの音が入った瞬間、松村さんから思わず「おおっ(笑)」の声が。バスンッ、と腹に響くキックが力強く、かなり気持ち良いです。
村田さん(以下“村”)「(音が)飛び出てくる感じ。ちょっとテンション上がりますね(笑)」
前回とスピーカーが違うので純粋な比較は出来ませんが、CDよりも低域・中域がパワフルに鳴ってる感じがしました。
三浦社長(以下“三”)「これはいい録音だよ。こんな音が出るとは(お二人は)思ってなかったんじゃない?(笑)」
松「いつもスカスカの音で聴いてますからね(笑)」
三「低域なんかでも、ズシーン、と締まった音だよね」
さて続いては、村田さんのセレクトで、高木正勝の「タイ・レイ・タイ・リオ」〈C〉より“Tidal”。
ピアノの音が綺麗に響いてはいましたが、スピーカーを強く揺さぶるようなダイナミックさはそれほど感じられなかったかな……。
村「意外にCDに近かった。普段聴いてるのと、そんなに差はなかったですね。それも不思議」
三「やっぱり、典型的なCDの音だね。音楽信号からノイズとか余分なものを取り除いて、“音楽だけ”録音した、という感じ。これは、スタジオ録音?」
村「ライブ録音のようです」
三「ホールにいる、という感じが消えちゃってるような、そういう風に聴こえるね」
うん、確かに。“臨場感”という成分があまり聴こえないと言うか。この盤は生楽器の録音なので違いますが、エレクトロニカ系のものって、結構そういう傾向がある気がします。安価なオーディオで聴いてもそれなりに聴こえる分、ハイエンドなオーディオで聴いてもそれほど大差がない、というような。
それでは、続いて松村さんのセレクトです。ANIMAの「月も見えない五つの窓で」〈C〉より“シーラカンス”を聴いていただきました。
録音もなかなか良いですが、曲も演奏も良いですねぇ。
松「良かったですね。結構(普段聴いてる音に)近いけど、シンバルの音とかは、(オーディオシステムで)増幅されてるから聴こえてきてるのか分からないんですけど、だいぶ(普段聴いてる音と)違うなぁ」
三「それは元々(CDに音の情報として)入ってたと思いますよ。ただこのスピーカーは、割合と高い方の音が伸びてますからね。それのせいかもしれない」
なるほど。確かにこのスピーカー、ハンプトンの時も、ビブラフォンの高域がカンカン鳴ってましたね。
松「いや、改めて(ANIMAの)ファンになったなぁっていう。いい曲やなって(笑)。いい。良かった」
いやほんと、いい曲ですよね。
さあ、どんどん行きましょう。では村田さんの方から。
かえる目「主観」〈C〉より、“あの寺へ帰りたい(弁慶の引き摺り鐘の伝説)”。
村「ボーカルが普段聴くより前面に出てて、素晴らしかったです。いい曲でしたね(笑)。こういう環境で聴けるのは嬉しいですね」
サビのクワイア部分では、見学の方も含め、思わず笑いが漏れておりました(笑)。
ではこの辺でまたアナログを聴いていただきましょうか。
前回もかけた、五輪真弓「恋人よ」〈ア〉より表題曲。そしてこちらも視聴会ではお馴染み、ノラ・ジョーンズ「Live from Austin TX」〈ア〉より“Come Away With Me”を続けて聴いていただきました。松村さんのご友人がテキサスの大学でノラ・ジョーンズと同級生だったらしく、実はデビュー前の彼女は歌が下手(?)だった、というエピソードも交えつつ。
いかがですか、アナログ盤で女性ボーカルものを続けて聴いていただきましたが。
松「うーん、やっぱり(CDと比べて)レコードの方が良い音に聴こえる」
村「うん、厚みがある」
さて、ここで本日のメインイベント(笑)、ハリー・ベラフォンテの「At Carnegie Hall」〈ア〉より、11分に及ぶ超編“Matilda”をプレイ。「今時こんなのかける人いない」と言いながらかける三浦社長。しかしこれはすごい!
ベラフォンテが口笛をトチって思わず吹き出したり、突然演奏を止めてMC始めたり、メンバーにコーラスを振ってみたり、今度はお客さんに歌わせたり、ラテンのリズムに乗せながら延々と同じサビを繰り返し続ける中、熱狂的に溢れ出す声援と爆笑の嵐。コンサートホールの醍醐味・コール&レスポンスの遊び心を漏れなく盤に刻み込んだような最高の演奏。うーん、楽しい!
三「長々と聴いてもらったんだけど、やっぱりステージ感が出てくるよね。左右からだけじゃなく、奥行きもある。つまりこれがレコーディング・エンジニアの腕だと思う。このレコードはRCAの“LIVING STEREO”っていうシリーズなんだけど、大体原則的にはマイク三本しか使ってない。左右と真ん中に一本ずつ。さらにベラフォンテが手持ちのマイクをエクストラで一本持ってるぐらいの構成。でもデジタルの録音だと、こういう感じで鳴るものっていうのはあんまり無いんだよ。だから今、アナログのファンが相変わらずいるっていうのは、こういう、あたかもホールに行って聴いてるような気分にさせてくれるような良いアルバムが沢山あるからだと思う」
ホールに行った感じ、しました?
松「うん」
村「(ホールの)熱気が感じられました(笑)」
いやぁ、すごいレコードがあるもんですねぇ。1959年に、よくもこんな演奏(や喋り)を長々と収録したもんです。映像も何も無いのに、ステージを動き回るベラフォンテ、大笑いするオーディエンスの姿など、ホール全体の景色が目に浮かぶようでした。
(ちなみにイベント後に聞いた話ですが、この日見学に来ていただいていたオイシイオンガク主宰のコイケさんは、この曲の時は思わず立ち上がって踊り出しそうになった、とおっしゃってました・笑)
ではこの辺りで改めて、お二人に持ってきていただいたCDも聴かせていただきましょう。
松村さんのセレクトで、木下美紗都の「海 東京 さよなら」〈C〉より“ボーイ・ミーツ・ガール”。
見学に来ていただいた方も含めて、この日一番「いい曲だ」と反応が良かった一枚ですね。
村「めっちゃ良いですね」
三「これ録音いいよ。綺麗に出てる。奥行き感もあるし」
村「すごく(音の違いが)分かりやすい」
松「正直、いつも聴いてるのと全然違う感じがした。ああ……こんな感じ(の音)やったんや、って思いました」
今日、ここまで聴いてきた中では、一番違いが分かりやすかったですか?
松「うん、一番分かりやすかったかも。他の音源は、(オーディオシステムの)音のデカさのおかげで聴こえてきてるのかな、という感じもあったけど」
途中、プレーヤーが音飛びを起こしてしまったので、プレーヤーにレンズクリーナーをかけている間に、前回もかけたスティーヴィー・レイ・ヴォーン&ダブル・トラブルの「テキサス・ハリケーン」〈ア〉を聴いていただきました。“ティン・パン・アレー”という曲を「あのティン・パン・アレーってこの曲から来てるの?」と言いながらかけてたんですが、このアルバムは84年の作品ですから、あのティン・パン・アレーのだいぶ後でした。
場所の呼称だそうです。シリコン・バレーみたいなもんですかね。
さて、次に聴いていただいたのは、村田さんセレクトによるOORUTAICHI「HONCHO SOUND vol.99 "Jurasy human"」〈C〉。
村田さん、どうでした?
村「普段聴いてる音よりも混沌としてて、それがタイチさんらしいな、っていう感じ」
いいオーディオで聴くと、アーティストの個性も如実に現れる、といったところでしょうか。
こちらもお馴染み、手嶌葵の「The Rose~I Love Cinemas~」〈C〉より“The Rose”を三浦社長にかけていただいた後、松村さんにこの日最後の曲を選んでいただきました。
松「じゃあ、スタンダードブックストアで働く平松くんの曲を最後に。多分これ、(今日かけた音源の中で)一番微妙なんじゃないかなと思いますね」
(一同笑)
というわけで(笑)、粒子「4」〈C〉より、“反復する想い出”をプレイ。
いや、フォローするわけではないですが(笑)、宅録っぽい感じは漂ってますけど、全然悪くないですよ。
三「なかなかいいよ。ボーカルのマイクの音とか、いいセッティングだと思うけどな」
松村さん、いかがでした?
松「曲はやっぱり好きですね。ただ、今日は試聴会ということで、どうしても録音を聞き比べてしまうので、音ののっぺり具合が感じられたかな。ちょっとまだライブ観てないんで何とも言えないところもあるけど」
ちなみに、僕はスタンダードブックストアで「IN/SECTS」買いました!
……はい、そんな感じでお時間が来てしまいました。松村さん、どうですか、こういうオーディオの音っていうのは。
松「うーん、結構難しいところがあるじゃないですか。というのは、ライブに行って、その感動をもう一度味わいたい、っていうところから録音技術ってスタートしてますよね。“また観たい”“あの感動を家の中で何度も味わいたい”っていう。でも僕らが(オーディオの世界を)受け入れにくいのは、それがエスカレートしちゃってて、“オーディオだけで楽しみましょう”みたいな世界もあるじゃないですか。僕らもライブで観て楽しいから、家でその人の音源を聴きたい、っていう思いは持ってるけど、なんかオーディオの世界って、そこからズレてしまってる印象があるんですよね」
三「“オーディオ”マニアと“音楽”マニアは違うんだ、っていうね」
松「そうそう、なんかそういう隔たりがあるんですけど、こうやって聴かせてもらうと、やっぱり“いい音で聴く”っていう純粋な良さっていうのはあって、さっきCDを(視聴室のシステムで)聴いて、“そりゃまあ安物(のオーディオ)で聴いてたらシャカシャカ音しか聴こえへんやろ”みたいなところから、いい音ってこういうものかというのも分かったし。やっぱり、“飽きない”んですよね。ウォークマンとかで聴いてると、“あ、今もうこれ聴かなくていいな”って飛ばしちゃう感じ。今日聴かせてもらった音ではそれが無いなって。でも、じゃあそこに何百万も払えるか、っていうと別の話なんですけど」
まあ、この視聴室のシステムは、“極端な例”なんですよね。コストに関しては、実は色んな選択肢があります……という話を、「アサヒステレオセンターに“オーディオの買い方”を訊いてきました」の記事を元に少しお話しさせていただきました。
極端な話、iPhoneにCDを非圧縮で取り込んで、1万円前後のイヤホン買えば、それで安物のミニコンポよりもいい音で聴ける場合もあるんですよね。数万、というレベルのお金を出すのも難しいという(僕のような・泣)人には、そういう選択肢もアリなんじゃないかと思います。
村田さんは今日の視聴会、いかがでした?
村「なんかこう、椅子に座ったままスピーカーに向かって(音楽を)聴くとか、“何もせずに音楽だけを聴く”っていう体験が、考えてみたらここ十数年、全くないので、そういう、この(スピーカーに向かい合った)体勢で聴くっていうのをもうちょっとしたいな、っていうのが、今日聴かせてもらって思ったことですね。やっぱり普段、“ながら作業”で聴く音楽しか無いので。ライブ行っても人と喋りながら聴くとか、家で仕事しながら聴くとか。“ながら”の音楽が常日頃やったので、“向かい合って聴く音楽”は、改めて良いもんだなって感じました」
確かに、僕もじっくり音楽を聴くのって視聴会の時ばっかりのような気がします……もしかすると、じっくり音楽を聴くためにも、視聴会っていう形式は良い手段なのかも知れませんね。
というわけで、今回も貴重なお話、そして様々な素晴らしい音楽に触れることが出来て、すごく有意義な時間を過ごすことが出来ました。
お二人様、お忙しい中ありがとうございました!
※イベント終了後は、見学に来ていただいた方に一時間ぐらい、あれこれレコードをかけて楽しんでいただきました。
見学の皆さんも、ありがとうございました!またお越し下さい!
いい音を楽しむオーディオBOOK (SEIBIDO MOOK) | |
上田 高志
成美堂出版 2011-12-02 |